日本には、思わず「そんな学校があるのか」と驚くようなユニークな学校が数多く存在する。
筆者の趣味は、そうした「オモシロイ学校」を研究し、実際に訪ね歩くことだ。
行事や制度、制服、校舎、校章、校歌など、学校を形づくるあらゆる要素を手がかりに、その個性を探っている。
今回訪れたのは、長崎県諫早市にある私立校・創成館高等学校。近年は生徒数も増え、県内でも注目を集める学校の一つだ。

取材では、同校教頭の岩永光弘先生に話を伺った。先生は創成館を一言でこう表現する。
「うちは、日本で一番青春できる高校です」
幾多の高校を研究してきた高校研究家である筆者の前で、「日本一」と言い切るその言葉には相当な自信がにじんでいた。
果たしてその言葉はどこまで本当なのか。実際に話を聞きながら、その実態に迫ってみた。

「生徒が先」か「高校が先」か?
昼頃、学校に到着すると、陽気な音楽と生徒の笑い声が聞こえてきた。校舎の外にまで伝わってくるほどの活気だ。
「軽音部の練習ですね。 お弁当を早く食べて練習しているようです」
活気の正体は部活動だったか。
確かに、創成館は部活動が盛んな学校でもある。
高校野球好きなら名前を聞いたことがある人も多いだろう。
「野球部は甲子園が夏5回春4回。女子バレーや男子バスケも全国クラスですし、最近はサッカーも強い。吹奏楽は九州大会で金賞です」
誇らしげに語る岩永先生からは「この人は、生徒の実績を自分事のように喜んでいるのだ」と伝わってきた。

しかし、筆者には少し意地悪な疑問が浮かんだ。
これは学校の教育の成果というより、私立校にありがちな特待制度や充実した設備によって、元から優秀な生徒を集めているだけなのでは?
だが先生は、その見方を否定する。
「実は、生徒への待遇や設備は他校と大きくは変わりません。
生徒が惹かれるのは、チームの雰囲気や指導者の指導方針。
そして一番は学校の『明るさ』だと思います」
「ヤンチャ校長」として名を馳せる同校の校長・奥田修史先生は、型破りなキャラクターで知られる。
学校としても「明るさ」を前面に打ち出しているそう。
そういえば、今回の訪問で「明るさ」を一番に感じたことがあった。
校内を歩いていると、すれ違う生徒が皆、顔を上げて「こんにちは!」と挨拶してくるのだ。
しかも驚くほど大きく、はっきりした声で。
その理由を、先生はこう説明する。
「挨拶の指導はかなり徹底しています。
朝礼で校長が『挨拶練習するぞ』と言ったら、全校生徒が並んで挨拶の練習をします。
もちろん、声が小さければやり直し。
社会に出たとき、挨拶ができるかどうかはとても大事ですよね。
創成館が大事にしているのは、卒業後の人生です。
30代、40代になったとき、どんな生き方をしているか。
勉強だけでなく、心の部分を大切にしています」
部活をとっても、挨拶をとっても、その快活な空気を作り出しているのは高校だった。
創成館という装置が、生徒に大きな影響を及ぼしているのだ。
16〜18歳という時期は、人の価値観が大きく形作られる時期でもある。創成館の「大人になった後の生き方」を見据えた教育は、学校のあるべき姿なのかもしれない。

なぜ創成館には生徒が集まるのか
創成館高校がある長崎県諫早市は、人口13万人で長崎市、佐世保市に次いで県内3位の賑わいを見せる。
ただ、五大都市である福岡県福岡市などと比べると人口は10分の1程度であり、県内では比較的大きな都市であるものの、いわゆる地方都市の域を出ないのも否めない。
それでも創成館は県内でも人気の私立高校として生徒数を維持している。
なぜこの立地で生徒が集まるのだろうか。先生に尋ねた。
「1学年300人のうち、諫早の生徒は実は4割ほどです。
スクールバスを県内4方向に出しており、長崎市や佐世保、島原などから通う生徒も多い。
また約200人が入れる寮があるので、福岡、熊本や鹿児島、沖縄、神奈川や大阪など、他県から来る生徒もいますよ」
つまり創成館は、諫早の学校というより、長崎県全体から生徒が集まる学校なのだ。
そうなれば、むしろ諫早という立地は都会と比べて広大な敷地をとりやすいし、喧騒から離れた長閑な空気は、生徒がのびのびと学び活動に取り組む環境として最適だろう。
学校のホームページを見ていると、もう一つ気になる情報があった。
「制服は100種類以上の着こなし」「イタリアのブランドを採用」。
先生はこう説明する。
「生徒が胸を張って、毎日笑顔で着られる制服にしたいという思いがあります。
ネクタイやシャツも選べますし、パーカーやスタジャンもあります。今年はCUTIE STREETさんがうちの制服を着てくださったり。
もっと生徒が喜ぶものを、と常に考えていて、来年はセーラー服も選べるようにします。生徒に喜んでもらえることが一番ですから」
青春を象徴するようなおしゃれな服での高校生活は、人気を支える一因なのかもしれない。

ところで、創成館は3年制高校だ。
私立校の場合、中学校も併設し中高一貫の6年制をとることが多いから、3年制の私立校は少数派である。
むしろ、長崎では公立高校が中高一貫化している例もある。
その中で、3年制である意味は何なのだろうか。
「むかしは中学校もありましたが、高校に注力するためになくしました。要望はすごくあるんですけどね。その分高校に力を入れたかった。」
「逆に今は、通信制を始めました。全日制の方とは同一校なので、全日制とは行き来できるのが魅力です。」
根底に流れる「生徒思い」な姿勢。常に生徒のためを思うような姿勢がひしひしと伝わってきた。
まさに「青春」! 学校なのに"型破りすぎる行事"
学校生活を思い出すとき、多くの人の記憶に残っているのは授業ではなく「学校行事」ではないだろうか。
行事は「青春」を語る上で欠かせない。創成館の学校行事について話を聞くと、その内容は想像を軽く超えていた。
「スポーツフェスティバルでは、派手な照明の演出に加えて、大型モニターやスモークを使います。
最後はライブみたいに銀テープが発射されて、まさにフェスティバルですよ(笑)」

「文化祭はなんでもありです。食べ物はもちろん、劇や歌、ラムネ早飲み、一発芸、腕相撲大会まで大盛り上がりです」
ここまででも十分に楽しそうだが、創成館の行事はさらにスケールが大きい。
特に修学旅行は、他の学校ではあまり聞かないような内容だという。
「行き先はずっとハワイだったんですが、コロナ禍のときは大村湾の無人島に変えました。何したと思います?」
先生は少し笑いながら続けた。
「自力で帰って来させました。」
行きは船で島まで送り届けるが、帰りは自分たちの力だけ。竹を切り、発泡スチロールなどを組み合わせていかだを作り、海を渡って帰るという。
17班が挑戦したが、無事に帰って来られたのはわずか3班だった(もちろん、自力で帰れなかった生徒たちも船で帰還した)。

「コロナ収束後は韓国に行きました。韓国の無人島でアイドルやDJを呼んでK-POPパーティーをしました。馬鹿でしょう(笑)」と先生は笑う。
さらに去年の修学旅行も、ひと味違うものだった。
「USJとディズニー、両方に行く修学旅行にしました。でもそれだけだと面白くないなと思って、ドッキリを仕掛けたんです。
夜、ホテルの部屋に生徒全員を集めて説教が始まる。
怒られて落ち込んでるところに音楽が鳴って、ひょっこりはんが出てくるっていう。そこからはお笑いライブですよ(笑)。
もう一同そろって大爆笑。大ウケでした(笑)」
ここまで凝った企画を実行する学校はそう多くない。まさに型破りな学校運営だ。
教員側の準備や負担も大きいはずだが、なぜここまで徹底するのだろうか。先生はこう語った。
「大人数でどこかに行く経験って一生に一回。だから、そこで特別な体験をさせてあげたい。
一生のネタになるような思い出を作ってほしい。そういう思いで用意しています。」
教育環境を支える「自発徹底」の教え
創成館の魅力は、行事や部活動だけではない。教育環境にもならではの特徴がある。
ホームページを見ると、創成館は先進的なICT教育をアピールしている。その背景には驚くべき歴史があった。
「うちは情報教育を1988年からやっています。Windows95すらも出る前です。
当時はまだ『パソコンはオタクのもの』という時代でしたが、これからは絶対に必要になると考えて始めました」
当時、パソコン一式は約120万円。決して気軽に導入できる設備ではなかった。
「パソコン、ディスプレイ、キーボード、マウス、プリンターを合わせて120万円。
それを生徒が一人一台触れるように、1教室に42台、それを10教室分で、合計400台以上を導入しました。
さらに、それらを統合する2000万円の演算システムまで整備。
お金はもう計り知れません。当時としては、おそらく日本一の規模だったと思います。」
創成館はその後もICT導入を積極的に進め、無線ネットワークの整備やタブレットの導入でも全国的に早い時期から取り組んできた。
「無線を入れたのもかなり早かったですね。iPadも第2世代の頃には導入していました。2013年ぐらいです。」
では、なぜそこまでICT教育に力を入れてきたのだろうか。先生は教育の構造そのものに理由があると語る。
「一対多の授業スタイルって、明治時代から100年近くほとんど変わっていなかった。
このスタイルだと積極的に手を挙げる生徒や、逆に授業に参加しない生徒は分かりやすい一方、そのどちらでもない生徒は見えにくいんです。
でも、ICTの導入によって大きく状況が変わりました。
タブレットを使えば、スワイプするだけで質問を送れるでしょう。
そうすると、これまであまり見えなかった生徒も授業に参加しやすくなりますよね。」

ところで、近年、教育界で注目されているキーワードの一つが「探究活動」だ。
大学入試でも総合型選抜などが広がる中、主体性や課題解決力といった非認知能力を育てる教育として注目されている。
創成館でも、この探究活動に力を入れているという。
「探究学習の全国大会では、15年間で8回大賞を取っています」
活動の内容は実に多様だ。生徒が自分で目標を決め、達成に向けて挑戦していく。
「料理のレシピを50種類作るとか、リフティングを5万回できるようになるとか、人の似顔絵を500人分描くとか。内容は本当に自由です」
「学校から自転車で関門海峡まで行って、渡ってラーメンを食べて帰ってきた生徒もいました」

こうした成果の背景には、創成館の教育理念がある。
「自分の限界にチャレンジさせるんです。失敗したら何で失敗したのかを振り返らせる。目標に向かって走り続ける根性を鍛える」
創成館のポリシーは「自発徹底」。主体性と個性を大切にすることだ。
「何にチャレンジしてもいいけど、自分が決めたことは責任持って頑張ってみよう、という考え方です。
うちは失敗するのが当たり前。クラブでも探究でも、まず挑戦する。
失敗したらまたやればいい。トライアンドエラーを繰り返しながら伸ばしていくんです」

「卒業後」を見据えるからこそ"型破り"
校舎の外まで響く音楽。すれ違う生徒の大きな挨拶。
ライブのようなスポーツフェスティバルや、いかだで帰還する無人島修学旅行。
さらに先進的なICT教育に、生徒が目標を決めて挑戦する探究活動。
「日本一青春できる高校」。 その言葉を聞いたとき、正直誇張に思えた。
しかし創成館は、確かに型破りでエネルギーに満ちていた。
他方、その根底にあるのは単なる「楽しさ」ではない。
創成館が見ているのは卒業後の人生だ。
その象徴が学校のポリシー「自発徹底」だろう。
挑戦、失敗、また挑戦……。トライアンドエラーを重ねながら成長していく。
青春とは、ただ楽しいだけの時間ではない。挑戦し、失敗し、仲間と笑いながら自分の限界を広げていく時間でもある。
創成館での取材は、「青春とは何か」を改めて考えさせるものだった。





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