都市部では2人に1人が挑戦する中学受験。それは子どもの可能性を広げる親子の挑戦なのか、はたまた親のエゴによる「教育虐待」なのか。自身の子どもを小1から塾に通わせ、その経験を人気教育ブログに綴り、現在は教育投資ジャーナリストとして活動している戦記氏と、お笑い芸人でアメリカ出身の父親でもあるパックンが、異なる文化視点から徹底討論。
「受験はオプション。やらなくても困らないが、やった方がベター」と語る戦記氏。その一方で「アメリカでは私立高校に通うのはわずか8%。そもそも受験文化がない」と語るパックン。日本の中学受験の実態と両国の教育観の違いが浮き彫りに。
驚くべきは「20年前の開成の入試問題が、今では偏差値50の中学で出題される」という現実。「もはや親が教えるのは実質不可能」という難易度に達している現代の受験事情。さらに、日本特有の「方程式を使わない算数」という特殊な世界も明らかに。
しかし戦記氏の家庭では「小学生時代に何かを犠牲にして学力を得たという認識はない」と主張。「睡眠時間を削らず、家族でのアクティビティもできている」という意外な実態も。
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中学受験は本当に必要?「オプション」であるはずの受験の現実
パックン:冒頭でいきなりですが、そもそも中学受験が必要か必要じゃないかでいくと、どうお考えですか?
戦記:「必要じゃない」と思います。オプションですね。やらなくても困らないけど、やった方がベターじゃないかと思ってるから、みんながやるわけで。
パックン:まあみんながやるわけではないですよ。やるやらないと決める子もいれば、やれないという環境とか状況でできない子もいる。その格差はどうなんですか?
戦記:一番大事なのは経済的要因だと思うんですけど、住む場所によって状況が変わります。首都圏全般で見ると、4人に1人だと思うんですけど、ただ港区とか、大体2人に1人、みんながやる前提になっちゃってる。
パックン:2人に1人はみんなじゃないですよ。半分ですよ。
戦記:半分ですね。よほどの理由がない限りやる。もっと言うと、その2人に1人は受験した結果うまくいかず、撤退する方も入っています。小6の受験する人数の結果が、2人に1人ということは、結構の人がやってる。小学生の早い段階からやってきたものの間に合わないとか、子供に向かないということで方針転換する方も含まれています。つまり、小学生時代のどこかで1回は中学受験のプロセスを経験されてる方は多いと思います。
アメリカと日本の受験文化の大きな違い
パックン:僕は受験のない文化から来ています。アメリカの場合は私立の高校に通うのは、そもそも8%とかですよ。
戦記:ボーディングスクールがあるとはいえ、やはり人数は少ないですよね。
パックン:結局8%。学費も日本の大学の3倍〜4倍かかってしまうんですよ。小学生から通ってしまうと、本当に億単位でお金がかかる。地域によって、ニューヨークやロサンゼルスなど「上流階級」が競い合う場所では、小学校受験に加えて幼稚園受験まで発生しているんですよね。こういう競い合いがある場所では、戦記さんのようなご家庭もあるかもしれません。
でも僕の周りは本当にいなかったんですよね。中学受験はおろか高校受験もない。それに比べると、日本の受験制度は定期的に試験がやってくる。地獄のように思えてしまうんです。
戦記:しかしこの日本の中学受験制度はあったほうが良いと思いますよ。言ってしまうと、日本の教育制度は中国やインドに比べるとそこまでハードでもないですし。
パックン:確かに日本をアジアの他の国に比べるとそうですね。
戦記:インドのような過度な競争もないし、アメリカのトップランクの大学などのように高難易度でもない。結構フェアなんじゃないかと思うんです。イギリスなどに存在するボーディングスクールのように、経済的にそもそも無理ではないかということも少ない。首都圏であれば家から通える範囲に、通える選択肢がたくさんある。さらにそれが偏差値という分かりやすい指標とセットになっているんですね。

親子関係でも中学受験は有利に
パックン:なるほど、指標があると。そんな戦記さんのお子さんは今、学年はおいくつですか?
戦記:今年の4月から高校1年生です。2022年に中学受験をして中高一貫校に入学しましたので、高校受験はしないでエスカレーターで高校に進学したことになります。中高一貫校の方が絶対楽ですね。親目線と子供目線があると思うんですけど、やっぱり中学高校のカリキュラムが繋がっているので、無駄が少ないっていうところで、子供が非常にやりやすい。高校受験をしてしまうと、高校受験の範囲内である中学分野を当然ながら深掘りしますけど、逆に言うと高校分野をやれないことになります。時間をうまく使えるっていうところは助かる。思春期の子供は親の言うこと聞かないというのが普通でしょうし。
パックン:なるほど。中学受験はまだ小学生だから言うことを比較的聞いてくれる。
戦記:そうなんです。思春期の一番難しい中学校3年生の時期で、親と子が揉める回数が減ると思いますね。高校受験があると「中学2年生の時点で、あと2年後どうすんだ、受験あるけどうすんだ、部活どうすんだ」ってなりがちですけど、それがない。
パックン:もっと言ってしまえば、小中高一貫校でもよかったじゃないですか。
戦記:もちろん選択肢としては存在しますよね。ただ、それはさすがに小学校受験の難易度が高いし、なかなか経済的にも厳しい。結果的に中学受験って選択肢を取れる方が多いんじゃないかなと思います。
「塾に通わせたのに最初は最下位クラス」
パックン:戦記さん自分の子供を塾に入れた時は、すぐ「うん」って言ったんですか?
戦記:娘は小学校1年生でもう通い始めたので。娘が小1の2016年当時は、私は総合商社である三井物産に勤めていて、フランスに海外駐在する可能性があったんですね。なので、まあ3年間駐在しちゃったら日本の中学受験事情がわからなくなるから、まず行ってみて、情報収集しようという軽い気持ちで通い始めました。
パックン:ずっとサピックスの一番前の席(注:サピックスは成績順に前から座る)に座ってたんですか?
戦記:いや、初めは一番下のクラスですよ。それがすごく意外で、結構入塾テストに向けて教えていたつもりなのに、一番最下位クラス。「最下位クラスか!」と驚き、自己認識とのギャップがあったので調べてみたら、やっぱり「家庭学習の内容」と「サピックスが伸ばす学力」の間に乖離がありました。これを認識して、どういうふうにしたらこのギャップを縮めることができるかなと思って2016年にブログを始めました。
パックン:そんなに早くから塾に行くのに違和感はないですか。僕はアメリカ人だから塾もないし、学校が終わった放課後は、学校と関係ないことをやる。スポーツや習い事をやる。子供と子供同士が集まって木に登る。コロラドは電車ないんだけど、電車に乗って隣町行くとか、自転車に乗って隣町まで行くとか。結局今の社会人として使っているスキルは、放課後に学んだ方が役に立ってる気がしますよ。
戦記:実はですね、そういった塾漬けのイメージがあると思うんですけど、サピックスって小学校1年生から小学校3年生までが週に1回しかない。そんなに負荷が高くないんですよ。忙しくなるという観点でみると、他の習い事や学童の方が、時間がかかっているのが実態ですね。
「もはや親も問題が解けない時代」が来ている
パックン:20年前のその最高レベルの学校の問題が今、偏差値50ぐらいの中学校で出題されるとおっしゃってましたね。
戦記:20年前に開成が出した問題が、中堅の偏差値50の中学で出題されるようになっているのです。もう時代が相当変わってしまっていて、いろんなパターンとか全部踏まえた上で出し尽くしているので、より「考える問題」を出すようになってきました。だから子供の方も暗記は前提として、深い思考を求められる問題に対応できるような教育を受けないと、なかなか勝てないですね。
パックン:そんなトップ校の問題、戦記さんは解けるんですか?
戦記:全く解けませんね(笑)。もう親が教えるのは実質的に無理だと思います。小4ぐらいまではわかりますけど、小5、小6になってくると、考えても分からないです。仕事に疲れているので考える気力も湧きません(笑)。
パックン:昔は親が全部教えてたんですか?
戦記:40年ぐらい前まで、つまり私の世代が中学受験をした時代においては、親が子供達には一応教えようとしていたと思うんですよ。実際、塾も親向けの授業をしていましたし。しかし、最近全く無理ですね。量的にも無理ですし、内容的に無理ですね。だからその解決策として何が起きるかというと、結局個別指導を使うとか、他の塾を使うという選択肢になってきます。家庭内で教えるのはほぼ不可能だと思うんですね。
パックン:中学受験では算数はマスト?
戦記:ほぼマストです。
パックン:ちょっと心配ですよ。親もついていけないぐらい、社会人が誰も使ってないほどの数学をできないと中学にすら入れないって。ちょっと行き過ぎじゃないですか。
戦記:もっと言うと、日本の中学入試は算数なので、普通の数学じゃないんですよ。方程式を使わない前提なんですよ。
パックン:方程式を使わない前提?なんで?
戦記:小学校の指導要綱の範囲内、という建前だからです。この数学ではない世界、おそらく日本だけでしょうね。数学とは直接には関係がないとはいえ、算数という教科で考え尽くした結果、論理的思考が高まり、数学で求められる能力に適応できるようになるという事実はあるとは思うんです。とはいえ、算数がなかなか独特な体験であることは間違いないと思います。
「塾に行かないと受験は無理?」 パックンが感じた違和感
パックン:そういうのを聞くと、塾に通わないとトップクラスの学校に進学できないだろうと思うんだけど、それでいいんですか?
戦記:塾に通って中学受験の知識を身につけることは、肯定的に考えています。今の中学受験プロセスでの経験が、大人になってから社会で遭遇するいろんな問題に対して、論理的にどう解決するかっていう思考能力のベースになることは間違いないですね。特に、算数・国語・理科・社会と4科目やることも大きい。理科社会の周辺知識だけでなく、国語の記述力、数学の論理解析能力、あと考え抜く力がつきますので。幼少期に受ける教育としては、社会に出るための準備段階として悪くないんじゃないかなと。だけど、中学受験に時間をかけすぎたり、そればかりやっていてもダメで、「外で遊ぼう、友達と遊ぼう」という価値観を捨ててはいけないと思います。

実は「犠牲」抜きでもできる中学受験
パックン:実際、戦記さんのご家庭で何かを犠牲にした記憶もないんですか?
戦記さん:当時はもちろん、今振り返って考えても、何かを犠牲にしてまで中学受験をやらなかったと考えています。
特に犠牲にしたくなかったのは睡眠時間です。大半の女の子は身長が伸びるのは小学生までなんですよ。だからよく寝るっていうことはもう義務化していて、就寝時間は小1だと8時15分、小2で8時30分、小3からは9時30分だったりしましたね。
で、小学校6年生の忙しい時でも、夜10時を大きく過ぎることはほぼなかったです。家族でのアクティビティや、課外活動もできているし、親とも仲良しだったと思います。
なにかを犠牲にして学力を得たという発想もありません。
パックン:ただ、世の中そう思ってなくて、ブログ書いていると、「こいつは教育虐待ぐらい子供に勉強させてるからダメなんじゃないか」とか言われることもあるでしょう。
戦記さん:それでも、何かを犠牲にしたって感覚がないんですね。中学受験プロセスで後悔を強いてあげるのであれば、受験直前期の1月において、過去問演習の年数をもっと増やすべきだった、ということくらいでしょうか。
パックン:なるほど。では、後半では「戦記さんは親の理想を押し付けているのか?」という意見について、お聞きしていきたいと思います。「教育虐待」となかなか強い言葉で言われている実態について、戦記さんはどう考えているのでしょうか。
後半記事は>こちらから
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