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“Independence”

ーー未来図代表の孫が投げかけた「どんな人材を求めていますか?」という問いに、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の関係者3人は口を揃えてこう答えました。

最先端の研究環境も資金も揃っているからこそ、学生には常に「で、君は何をするのか?」と問われる。

その問いに自ら答えられる学生は歓迎されるが、指示待ちで動けない学生は合わない――それがOISTのカルチャーなのです。


沖縄科学技術大学院大学(OIST)とは

沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、2011年に設立された、まだ十数年という若い大学院ながら、2019年の Nature Index 正規化ランキングで世界9位に入り、東京大学を上回った実績 を誇ります。国際色豊かなキャンパスでは、物理・生命科学・AI・海洋研究など幅広い分野で最先端の研究が進められ、今や「世界が注目する沖縄発の大学院」として存在感を放っています。さらに、OISTは文部科学省ではなく内閣府所管の大学法人として運営され、アカデミアにとどまらずスタートアップ支援などにもつながる独自の柔軟性を持っています。

では、なぜ沖縄にあるこの大学院がこれほどの力を持つのでしょうか。――その理由を探るべく、未来図代表の孫が現地を訪ねました。今回は、OIST 研究科長オフィスから、ハリー・ウィルソンさん、グスマン勇気さん、アリス・レジスターさんとインターン生の毛防子璃奈さんにお話を伺いました。

なぜ沖縄!?

孫さん:若い子にとっては東京の方が楽しい場所かもしれません。でも、OISTにとって「沖縄にあることのアドバンテージ」って何なのでしょうか。

グスマンさん:一番大きいのは「何もないこと」ですね。だからこそノイズがなく、研究に集中できる環境があります。「なぜ先生たちはOISTで働きたいと思うのか」と気聞かれることはよくありますが、他の地方で同じモデルを実現するのはなかなか難しい。沖縄は琉球王国時代から交易を通じて培われた国際的な感覚を持ち合わせており、米軍基地の存在もあって、海外の人に対してもオープンな文化が根付いている。私は山口県出身ですが、同じ仕組みを地元で試しても成功するのは難しいと思います。海外から来る研究者にとっても馴染みやすく、日本特有の文化の違いや地元との摩擦を感じずに仕事ができる環境なんです。さらにOISTには学部や修士がなく博士課程のみ。なので、学部生の就職活動の話題などもなく、皆が国際的な視野で博士課程の先を見ながら研究に集中できるのは大きな強みです。

レジスターさん:自然環境も強みですね。沖縄は「生物多様性(biodiversity)」の宝庫で、その豊かさ自体が研究資源になります。

孫さん:なるほど。学生のリアルな日常も聞いてみたいですね。

毛防子さん:普段は研究に集中していますが、たまに研究室の仲間とご飯に行ったり、週末には離島巡りをしたりしています。昨日も石垣島に行きました。(笑)多くの人が祝日や休暇で訪れる場所に、自分は「住んでいる」。そう考えると、かなり贅沢な環境だと思いますね。


英語での研究に、日本人は対応できるの?

孫さん:OISTでは、日本人が約2割で、研究も生活も基本的に英語ですよね。日本人学生はどんなタイプが合うのでしょうか。

グスマンさん:ガイダンスを待つ学生よりも、自分のアイディアを持ち「このリソースで研究をさせてほしい」と言える独立心のある学生が向いています。OISTには最先端のツールや設備が揃っているので、問われるのは「で、君は何をするのか?」。ある程度の指導はありますが、やはり Independent thinker が必要です。

毛防子さん:インターン生は授業がなく、与えられた課題をこなすという形でもありません。自分で研究の問いを立て、ひたすら取り組むことになります。

孫さん:でも、「独立心」って測るのが難しいですよね。研究実績がなくても興味はある、という学生も多いのでは。

グスマンさん:だからこそ「マッチング」を重視しています。OISTには先生が約100人、学生は300人ほど。指導教員との相性が合わなければ、どれだけ優秀でも研究は進みません。中途退学を避けるためにも、入学前から本人の研究テーマと実績、そして教員との相性を丁寧に見ています。


OISTを支える国際比率

孫さん:多くの大学は留学生や多国籍の学生を集めることに苦戦していますよね。なぜOISTは、むしろ外国人学生の方が多いのでしょうか。

ハリーさん:一番の違いはインフラです。多くの大学はそこに苦戦しますが、OISTでは生活面のサポートを徹底しています。例えば、車の購入や公共料金の支払いといった、多くの外国人にとってハードルの高い日常の手続きまで大学が支援します。さらに授業料相当額を含む、年間300万円程度の経済支援が支給されるほか、研究活動に必要な設備が十分に整っているため、学生は安心して研究に没頭できるんです。この環境が外国人にとっての大きな魅力となり、学生の約8割が外国籍、2割が日本人というユニークな比率が実現しているのです。

孫さん:サポートは重要ですよね。日本人学生の英語力を心配する声もありますが、実際はどうでしょうか。

ハリーさん:実際には英語が第二言語の学生が大半で、ネイティブはむしろ少数です。最低限の意思疎通ができれば十分で、大切なのは科学に対する本気度なんです。科学の共通言語は確かに英語ですが、全員が流暢というわけではありません。むしろ多くの学生が第二言語としての英語を使いながら研究しています。だからこそ、OISTは「海外と日本をつなぐ橋」として機能している。英語で博士課程を修了した日本人が海外で活躍する一方、外国人学生が日本に残って大学や企業でキャリアを築くケースも少なくありません。

グスマンさん:だからOISTが求めているのは「英語が流暢な学生」ではなく「世界で研究に挑戦できる人材」です。実際、言語の壁を理由に退学した学生はこれまで一人もいません。5年間真剣にキャンパスで過ごせば、自然と語学力は身につきます。

孫さん:結局のところ、問われているのは語学力そのものではなく、研究にかける姿勢と独立心なんですね。

直面している苦労とは?

孫さん:OISTの中にいる人たちが感じる課題って何でしょうか。

グスマンさん:逆に日本人学生が少ないことが課題ですね。OISTを魅力的に感じる学生がいても、その背後には「親をどう説得するか」という壁がある場合もあります。例えば、もし自分の娘が東大の博士課程に進学できるのに「なぜOISTに行くのか」と言われたら、多くの保護者は悩むはずです。でも、それでも「OISTでなくてはいけない」と思えるような環境を提供できることが重要だと思っています。研究環境やアクセスの強みをもっと伝えていく必要がありますね。

理系の博士はコスパが悪い!?

孫さん:実際に生徒から「理系博士はコスパが悪い」と相談受けることもあるんです。親の立場からすると、娘が科学に興味を持っていても「学部を出たら就職しなさい、銀行や商社に行った方がいい」と進路指導することが多い国だと思います。

でもそれこそが根本的な問題ではないでしょうか。本当は「博士課程に進んだらこういうキャリアもある」と示してあげることが必要だと思うんです。

グスマンさん:そこは私たちも強く感じています。OISTでは博士課程の学生に対して「PCD(Professional Career Development)」という必修科目を設けています。博士課程を修了した後のキャリア形成を支援するプログラムで、研究者になる以外の選択肢も具体的に示しているんです。

レジスターさん:実際、日本の社会全体が博士人材を必要としています。親御さんは不安を口にするかもしれませんが、現実には需要がある。だからこそ、私たちは高校生にも「博士を取る未来」をイメージできるように働きかけています。博士号を取得したからといって研究者に限定されるわけではなく、むしろ修士号では得られない能力を培えるんです。

たとえば――5年間のプロジェクトを自律的にやり遂げる粘り強さ、プランニング、批判的思考力、国際的なコミュニケーション能力や文化的な感受性。これらは企業にとっても大きな価値になります。博士課程で得る経験は、社会のさまざまな場面で活かせるのです。

ハリーさん:その需要は実際にOISTへの問い合わせにも表れています。今年のキャリアフェアには14社以上の企業が学生と会うために訪れ、企業側も博士人材に強い関心を示しています。いまや「博士号=大学教授への一本道」という時代は終わり、GoogleやMicrosoftといった企業を含め、最先端の研究はむしろ産業界で進んでいます。日本政府も2040年までに博士人材を3倍にしたいと掲げていますが、問題は受け皿となる企業がどれだけ積極的に採用していくかです。

インターン生視点:OISTのリアル

孫さん:実際にOISTでインターンをしている学生はどれくらいいるんですか?楽しめていますか?

毛防子さん:私は4か月間滞在していますが、本当に楽しくて、正直帰りたくないくらいです。研究にどんどん打ち込める環境があって、今は海洋生物や環境データを扱っています。川に生息する虫のデータ解析をしているんですが、解析方法は最初はまったく知らなかったんです。それでも新しいことを学び、できることが増えていく感覚がすごく楽しいです。

孫さん:それはいいですね。インターンでの学びを加速させている要素はどこにありますか?

毛防子さん:一番大きいのは「授業がないこと」だと思います。研究だけに集中できる時間が確保されている。週に一度、先生と1対1でミーティングがあって、その場で進捗を振り返る。1週間どっぷり研究に集中し、成果や課題を明確にできるんです。さらに、半年で達成できるテーマを先生が一緒に提案してくれるので、自分のレベルに合った挑戦ができています。こうした環境だからこそ、日々新しい発見や成長を感じられるんだと思います。

OISTからの一言

孫さん:最後に、保護者や受験生、そしてこれから研究を志す学生に向けて、伝えたいことはありますか。

グスマンさん:まず強調したいのは、どんなバックグラウンドを持っていても、その個人の人生経験や考え方には価値があるということです。東京や大都市出身じゃなくても、地方で育ったからこそ持てるユニークな視点は研究に必ず生きます。

レジスターさん:そして、もし周囲から反対されても「それでも研究がしたい」と思える強い気持ちを持つ学生にOIST来てほしい。親の説得は大変かもしれませんが、研究に没頭できる環境がここにはあります。私たちは、そうした学生が自分の道を切り開くことを全力で応援します。

OISTでは学生自身が研究テーマを選び、独立したプロジェクトを進められる。大規模大学では難しい経験です。だからこそ、研究に本気で取り組みたい学生にとっては大きなチャンスになるはずです。

OISTに通用する学生は日本で育つか

果たして、OISTで研究できる日本人を育てられるのか。
「俺たちはOISTに送り込める人材を日本の教育で育てられているのか」と、教育関係者は考えざるを得ません。

現状の日本の教育を経た若者の多くは、OISTについていけないだろう。なぜなら、OISTは面倒見の良い大学ではないからです。求められるのは、学力だけでなく、独自のアイディアを持った強い研究マインド。

「学力」偏重から脱し、どうやって「自立した人材」を育てるか。
それを真剣に考えなければならない――OISTを訪れて、改めて痛感しました。

 次回は、OISTのインターン生の毛防子さんに「OISTでのリアル」についてより深掘ります。