2月と言えば、受験シーズン。悲喜相こもごも入り混じる季節となりました。

 かつて、筆者も2月25日・26日の東京大学入試本番に向けて頑張っていたことが思い返されますが、実は一足早く東大合格の栄冠をつかまれた方がいらっしゃいます。東京大学学校推薦型選抜(通称「東大推薦」)の合格者たちです。

 11期生となる今年の東大推薦では、史上最多の93人が合格。私は昨年から20名以上の東大推薦生にインタビュー取材を行ってきましたが、誰もが高校時代から目覚ましい活躍ぶりを見せており、今年もどんな学生たちが入学してきたのか、目が離せません。

 そこで今回、合格したばかりの東大推薦第11期生の方に取材を申し込んだところ、数名の方にご快諾いただけました。

今回お話を伺う安藤祐樹(仮名)さん(10代)は、高校で出会った地理の奥深さに魅了され、独学の末、地理オリンピックに参加したり、学会発表を行ったりと、様々な結果を出し続けた傑物。無限のバイタリティと、たった一人で努力し続けるストイックさは、どこからやってきたのでしょうか。

どこよりも早く行った「東大推薦第11期生」への直撃インタビューの様子を、少しだけお見せします。

学際的な学びに惹かれて

__この度は合格おめでとうございます。どうして東京大学に進学しようと考えられたのでしょうか?

安藤:行きたい学科が東京大学にしかなかったからです。色々な大学を見渡しましたが、私の見た範囲では、私が大好きな地理を文理横断的に学べる学部が東京大学教養学部学際科学科にしかなさそうだったので、出願を決めました。

私が地理を好きになったのは、高校に入ってから。中学までは、むしろ嫌いな科目でした。小学校や中学校の地理って、山や川の名前を覚えたり、各地域の特産品などを覚えたり、かなり暗記要素が強いように感じられたからです。中学の中では成績が良かったものの、当時はバレー部の活動が忙しくて、勉強の時間は十分に取れませんでした。

ですが、高校に入ってから学んだ地理は、それらとは全く異なりました。それまでだったら「この地域はサバナ気候です。覚えましょう」で済んでいた内容について、「なぜこの地域がサバナ気候になるかというと~」と説明が入るようになったのです。

すべての地理には理由があります。因果関係を理解することが、地理的思考力につながり、あらゆる地理・地形的特徴などに対して「なぜこうなったか?」を考える姿勢が、これ以上なく魅力的に映りました。

そこで、高校からは地理を極めるために、10冊以上参考書を読み漁り、大学で使われるような専門書も積極的に読みました。
調べているうちに「地理オリンピック」という存在をネットで知り、面白そうだったので個人的に申し込みました。もちろん、自分で過去問を入手して、ひとりで対策を積みました。

安藤さんが読んだ参考書の数々

こうして地理を極めるにあたって、徐々に「文系的な知識・考え方と、理系的な知識・考え方の両方が必要だ」とわかってきました。もともと、文理を横断しながら、複雑に絡み合う様々な要素について考えることは好きでした。

ですから、むしろ学際的な学部で、文理に囚われず学びを深めたいと感じるようになりました。そこで、横断的な学びができる学部を探したところ、東京大学の教養学部が見つかったのです。

__特に高校で面白いと感じた授業はありましたか?

安藤:私が好きだったのは、「カレー地理学」という授業です。

先生が筋金入りのカレー好きで、カレーと言えばインドじゃないですか。そこで、インドを舞台に「どうしてインドにカレーが根付いたのか?」を、気候的要因・宗教的要因・歴史的要因・経済的要因など様々な観点から分析するという授業でした。

結局、最終的に着地するのはカレーの話になるわけですが、カレーに至るまでの道のりが何種類もあって、しかもそれらが複雑に絡み合っている。オチがわかっているのに、「ここでつながるのか!」とびっくりさせられて、様々な物事が結集していく面白さがよくわかる授業でしたね。

幼いころはゲーム三昧


__この度は地理に対する好奇心に導かれて東大合格という結果につながったのかと思われますが、もともと好奇心が強いタイプだったのでしょうか?

安藤:いや、むしろ静かなタイプでしたね。小学校の頃は、友達と遊ぶこともありましたけれど、基本的には家にこもってゲーム三昧。
その反動なのか、今では興味も薄れました。合格してから暇つぶしに手に取ったこともありましたが、すぐに飽きてしまいますし。

※画像はイメージです

ゲーム以外だと、少し読書をしていましたが、別に本が好きな子どもではありませんでした。図書室に時たま思い出した時に顔を出す程度で、あとは昆虫、とりわけスズメバチが大好きだったので、スズメバチに関する本は狂ったように読み漁っていましたね(笑)

勉強もそこまで頑張っていなかったものの、幸い公立小学校のカラーテスト程度なら100点が取れるくらいにはできました。とはいえ、中学受験は特に考えず、小学校の復習をする程度の緩い塾に通いながら公立中学校へ進学しました。

基本的にはゲームとすごした小学校時代でしたが、親からは「やめなさい」とか「勉強しなさい」みたいなことを言われた記憶はありません。
5時間とか遊んでいるときに、「さすがにやりすぎじゃない?」と言われたことはありますが、その時も「やりすぎだからやめろ」とは強要されませんでした。

旅行中の本人近影

部活が変えた人生の岐路

__お話を聞いている限りでは、もともとはかなり内気かつ勉強に対して消極的だったような印象を受けますが、たった一人で研究を継続し続けるバイタリティを得たきっかけなどはあるのでしょうか?

安藤:私は地元公立中学に入ってから、大きく変わりました。もともと運動が好きでも得意でもなかったのですが、なんとなく部活をバレー部に決めたんです。

ただ、母校は地元でも強豪で知られており、週7日練習は当たり前。月に一、二度休みがあるくらいで、ほぼ毎日ずっと練習をしていました。

もともと本気でスポーツに没頭しようとしていたわけではなく、楽しくバレーボールをやっていたら、いつの間にか熱中していた形でした。しかも、思っていたよりもバレーボールのセンスがあったみたいで、スタメン入りしてしまいました。

私のポジションはセッターといって、チームの司令塔を担う大役。もともと内気だった自分も、半強制的にコミュニケーションを取る必要が生じたおかげで、かなり喋れるようになりました。

※画像はイメージです

同時に、勉強も頑張るようになりました。中学最初の定期テストでかなりいい成績をとれてしまい「あれ?自分って、意外と勉強できるのか?」と、その気になってしまった。とはいえ、部活の練習が忙しかったため、僅かな隙間時間をすべて費やして、必死に勉強しました。

もちろん、つらくて挫けそうになったこともありましたが、逆に時間がない中で部活と勉強を両立させるために、色々創意工夫をする発想が出てきたのは、大きな収穫でした。おかげで、タイムマネジメントやスケジューリングの概念を獲得できたからです。

中学までとは逆に、高校では部活の活動頻度が極端に落ち込んだため、膨大な時間が余ってしまったのですが、その際も無駄なく地理の勉強や研究にあてることができました。仮に、中学時代バレー部に通っていなければ、今の私はこうして東大推薦合格者として取材を受けることもなかったかもしれません。

文武両道とは言いますが、私の合格は、まさに文武のふたつの道が支えてくれたように感じます。

まとめ

小さなころはごく普通の、ちょっとだけ勉強ができる少年だった安藤さん。彼を変えたのは、中学時代の部活動経験でした。

部活と勉強、全く毛色の異なる二種類の活動を、両方とも非常に高い水準で保つためには、体力のみならず方法の効率化や、効果的なスケジューリング、タイムマネジメント能力が必要となります。

恐らく多くの方は大学~社会人経験を基に身に着けていくであろう能力ですが、彼は10代前半にして、既に糸口をつかんでいました。これこそが彼の合格の秘訣であり、たった一人で戦い続けることを可能にした根源であると考えられます。

東大推薦は、研究者適性を見抜くために設置されたと考えられる特別コース。研究者ともなれば、一人で強大かつ困難な謎に立ち向かうべき時も来るでしょう。
勉強だけではなく、総合的なメンタル・フィジカル能力まで試される時代が来ているのかもしれません。