近畿大学情報学部(大阪府東大阪市)は2026年7月24日、令和9年度(2027年度)総合型選抜における生成AIの利用方針を明示すると発表しました。
きっかけは、ある高校生からの問い合わせだそう。
この方針では、出願書類の作成に生成AIを使ってよいだけでなく、使った経験を自己PRとして語ってよいとされています。
生成AI利用によって、入試がどのように変化するか? 未来図編集部が徹底解説します!
隠すか、書くか
「入試で、生成AIを活用したシステム開発の経験を示しても問題ないか」
これは近畿大学情報学部に高校生から寄せられているという質問だそう。短い一文ですが、いまの高校生が置かれている状況がよく表れています。
アプリを作ってきた高校生を想像してみてください。エラーの原因をAIに聞き、設計の相談をして、何度も書き直しながら動くものを完成させました。
高校生活でいちばん時間をかけ、いちばん考えた経験のはずです。
ところが出願書類を前にすると、手が止まってしまいます。この経験を書いていいのだろうか。「AIを使いました」と書いた瞬間に、努力していないと見なされるのではないか。そう考えて、いちばん力を入れた取り組みを書類から外してしまう受験生がいてもおかしくない状況でした。
「書いていい」だけではなかった
近畿大学情報学部が出した答えは、この不安を正面から解消するものでした。
入試要項の情報学部・出願書類の注意事項には、各出願書類作成における一連の過程で生成AIの活用を認めると記されています。自己PR動画だけでなく、志望理由書や活動報告書も含む書き方です。プレスリリースでは、自己PR動画(3分程度)のアイデア出しや構成の検討、第2次審査のプレゼン準備での構成検討やスライド作成が、具体例として挙げられています。
さらに踏み込んでいるのが次の一点。
生成AIを活用した方法や工夫した点、そこから得た学びを、自己PRの中身として語ってよいとしたのです。
AIの利用は、目をつぶってもらう対象から、評価される対象になったことになります。
ただし、線引きもあります。
要項では、出願書類の偽造・虚偽記載・剽窃は不正行為とされ、合格や入学の取消の対象になると定められています。AIを使ってよいことと、書いた内容が事実であることは、まったく別の話であると明示した形です。
「協働パートナー」という言葉
では、どのような使い方であれば評価されるのでしょうか。その指針になるのが、プレスリリースにある「AI活用スキル」の定義です。同学部はこれを、単なる文書生成の自動化ではなく、思考を深化させアイデアを具体化するための「協働パートナー」として主体的に使いこなす実践力だとしています。
AIに「自己PRを書いて」と頼み、出てきた文章をそのまま提出するのは、思考を外注していることになります。この場合、書類のなかに受験生自身は残りません。
一方で、自分の考えをAIにぶつけて反論をもらったり、構成案を複数出させて選び取ったり、うまくいかない出力の原因を考えて問い方を変えたりする使い方もあります。これらは思考のプロセスそのものです。
同じ「AIを使った」でも、この二つはまったく違います。そして後者を経験した人には、必ず語れることが残ります。なぜその問いを立てたのか、AIの答えのどこに納得できなかったのか、最終的に何を自分の判断で選んだのか。こうした部分は、生成AIが代わりに答えてはくれません。
使わなかった人が、損をしないように
もうひとつ見逃せないのが、公平性についての記述です。プレスリリースには、生成AIを利用しない受験生が不利益を受けることがないよう、利用環境の違いにも十分配慮すると書かれています。
生成AIを使えるかどうかは、家庭の通信環境や端末、学校の方針にも左右されます。AIを使えることが有利になる入試は、本人の努力とは関係のない差を選考に持ち込むことになりかねません。利用を認めると同時にこの一行を添えた点は、AI利用を認める入試の設計として、他大学の参考にもなりそうです。
情報学部長代行の井口信和教授も、完成した成果だけでなく、何に関心を持ち、どのような工夫や挑戦を重ねてきたのかを自分の言葉で伝えてほしいとしたうえで、生成AIを利用せずに自身の力を磨いてきた受験生も同様に歓迎するとコメントしています。
令和9年度(2027年度)総合型選抜入学試験(情報学部)概要
項目 | 内容 |
|---|---|
募集人員 | 30名程度(要項)※入試情報サイトは「30名以内」と表記 |
出願期間 | 2026年9月1日(火)〜12日(土)必着 |
第1次審査 | 出願書類(志望理由書、活動報告書、自己PR動画など) |
第2次審査 | プレゼンテーション、口頭試問、出願書類による総合評価(30分以内・Zoom実施) |
第2次審査日 | 2026年10月24日(土)※オンライン実施 |
合格発表 | 第1次=10月9日(金)/第2次=11月7日(土) |
「禁止」と書かない判断
生成AIの利用は、提出された書類から検出することが事実上できません。禁止と書いても、ルールを守った人だけが損をする可能性が残ってしまいます。それであれば、認めたうえで評価軸に組み込むほうが、制度としては正直ですし、実効性もあります。
多くの大学が「禁止」か「言及なし」のどちらかを選んでいるなかで、第三の選択肢を具体的に示した点に、今回の意義があると考えます。
つまり、評価軸は変わっていないのです。
AIによって、見栄えのする成果物を誰もが用意できる時代になりました。だからこそ大学が見たいのは、成果物の向こう側にいる受験生本人です。生成AIの登場は、総合型選抜の評価軸を変えたわけではありません。もともとあった軸が、より鮮明になっただけの話です。
探究活動や作品制作でAIを使ったのであれば、隠す必要はありません。どう使い、どこでつまずき、何を自分で判断したのかを語れるかどうかが問われます。AIとのやりとりの記録は、そのまま思考の記録になります。いまのうちから、こまめに残しておくことをおすすめします。
出典
- 学校法人近畿大学 プレスリリース「近畿大学情報学部が総合型選抜での生成AI利用方針を明示 自己PRやプレゼンテーション準備に生成AIの活用を認める」(2026年7月24日) https://newscast.jp/news/9177205
- 近畿大学「令和9年度(2027年度)総合型選抜入学試験要項」 https://kindai.jp/assets/pdf/exam/system/ao/2027_ao_requirements_a4.pdf
- 近畿大学 情報学部 https://www.kindai.ac.jp/informatics/
- 近畿大学 研究者情報「情報学部 情報学科 教授 井口信和」 https://www.kindai.ac.jp/meikan/238-iguchi-nobukazu.html
※募集人員・出願条件・提出書類の詳細および最新情報は、必ず近畿大学の募集要項でご確認ください。





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