「海外で医師になる」という選択肢が、いま確実に現実味を帯びてきている。
 その代表格が、ヨーロッパ中から留学生が集まるハンガリーの医学部だ。

入試の倍率は日本よりもはるかに低く、卒業すればEU認定の医師免許が得られる。
そのため、一部では「医学部の穴場」と呼ばれることもあります。
しかし、実際のところ、そこは“穴場”どころか壮絶な努力が求められる「試練の場」。

今回は、ハンガリー医科大学事務局に直接お話を伺いました。
 6年間にわたる厳しい教育の実態と、「世界で通用する医師」を育てる環境のリアルに迫ります。

※ハンガリー医科大学事務局とはハンガリー国立大学医学部の理事長、学長、プログラムディレクターが理事として参画し設立された公式団体。ハンガリー国内にある4つの国立医科大学へ日本人学生の入学試験を実施する。また、渡航~卒業後の日本の医師国家試験の取得までの学習相談や生活の相談、支援も行う。


国際性を養う6年間

—ハンガリーの医学部に通う意味とは何なのでしょうか

日本との1番の違いは言語と資格です。
ハンガリーには、センメルワイス大学、デブレツェン大学、セゲド大学、ペーチ大学の4つの医学部があり、いずれも英語で学べるプログラムを提供しています。
授業はすべて英語で行われ、修了すればハンガリーの医師免許(EU認定の医師免許)を取得できます。

教育水準についても、例えばセンメルワイス大学は、世界大学ランキングで200-250位と世界的に認められています。日本では北海道大学・九州大学・名古屋大学といった旧帝国大学の一角も、200-250位に格付けされています。
加えて、日本以外にもヨーロッパ西部・ノルウェー・中東からも多くの留学生が学びに来る、人気のプログラムなんです。

しかし、高い評価の裏側にはもちろん努力が求められます。日本語で授業を受けていた高校生が、いきなり全て英語での授業を受け、異国の地で生活をするわけですから、なかなか覚悟がいりますよね。
しかも、6年制という点では日本と同じですが、教養課程がないので1年生の最初から解剖学や発生学といった医学の基礎を学びます。言語と内容、どちらも高いハードルで授業が始まるというのは日本と比べて大変なところではないでしょうか。
3年生までは座学で医学を学び、4,5,6年生ではEU圏の病院で現場実習を経験します。

—教育内容に違いはあるのでしょうか

試験でも大きな違いがあります。日本では、ほとんどの試験がペーパーテスト一発勝負です。そのため、同級生に遅れず勉強を進める集団から外れない力、一夜漬けで詰め込む集中力が求められます。

一方で、ハンガリーでは14週間の授業期間の後、7週間の試験期間があり、試験は筆記と口頭試問の両方に合格しなければなりません。
しかも、口頭試問のスケジュールは自身で管理しなければならない。1科目につき6回まで試験を受けられるので、どの程度勉強して、どの時期に試験をうけるか、といった自己管理能力が必要になります。

加えて、試験期間で勉強が終わらないのも特徴的です。例えば、解剖学IIの試験でも解剖学Iの試験範囲が引き続き試験範囲になる。これによって、日本の医学部のような「試験のための勉強」ではなく、使える知識を蓄えるための「本当の勉強」をするようになるんです。

6年生では、臨床だけでなく研究の機会もあります。日本とは異なり卒業論文の執筆が必修です。そのため、英語で論文を作成する、という能力を育むことができるのです。

このように、厳しい環境ではあるので進級でつまづく学生は一定数いて、ストレート卒業率は40%、留年しながらの卒業率は30~40%です。ただ、逆に言えば「卒業すれば実力は確か」です。EUで認められた医師になる訳ですから。

「ハンガリーならでは」の学び

—-ハンガリーならではの、身に付く能力について教えてください

最も大きいのは、英語で医療を扱う総合的な力と、異文化の中で生き抜くコミュニケーション力です。

英語については、まず、英語で診療ができるようになる。日本でも医療英語は勉強します。ただ、実際に患者さんを英語で診察するとか、カルテを英語で書くとなるとできる学生はほとんどいないのではないでしょうか。
少子高齢化や移民の受け入れといった社会背景もあり、外国人の患者さんを診察するケースは現状でもありますし、今後確実に増えるでしょう。

次に、研究です。日本で研究に力を入れている医師はたくさんいます。AIのある時代ですし、英語で論文を読む・書く、というだけなら簡単かもしれません。でも、実際に国際学会で発表したり、外国の医師や研究者と議論をできる人材となると限られてしまう。それが本当に勿体ないんです。実際に、英語ができるという理由から研究で重宝され、論文掲載まで繋がった卒業生もいます。診療科や研究において重宝されるでしょう。

コミュニケーション能力については、人種構成が1番大きいと思います。
日本人が学ぶ英語のプログラムにはハンガリー人がいないので、全員がマイノリティという環境で始まる。 つまり、文化も宗教も異なる人たちと協力し合うことが前提になります。最初は戸惑うことも多いですが、互いの違いを尊重し、助け合いながら学ぶ環境で、他者の状況を慮る理解力やチームワーク力が身につきます。

そのため、グローバルなコネクションも強く、在学中につながった学生が、医師として世界中に散っていく。これは、情報収集の面でも、将来海外で働くという面でも、明らかなメリットです。

日本の国家試験合格率は70%(2024年度)

—-日本の医師免許は取れるんですか?

もちろん取得できます。ハンガリーの医学部を卒業すると、日本の医師国家試験の受験資格を得ることができるんです。EUでは卒業するだけで医師免許を取得できますが、日本では国家試験に合格する必要があるので。実際に、卒業生の多くが日本の医師免許を取得しています。

最も重要視される合格率としては、卒後1年目で約70%と低くはあるんです。※医師国家試験の合格率は約92%
ただ、卒業から2年以内まで広げると90%位なので、おおよそ日本の医学部と変わりません。

英語で学んだ用語を日本語に置き換えるのが主なので、特別難易度が高いわけではないんです。ただ、実習や卒論、就活など忙しい中で十分な時間を捻出するのが難しい部分があります。また、ハンガリーの医学部の卒業は6月ですが、日本の国家試験は翌年の2月と、時間が限られているのも大きな理由の一つです。だから、6年生から日本の国家試験の勉強を始めるのでは間に合わない場合が多い。事務局では、4年生くらいからコツコツと進めるよう指導しており、他にも模試の情報共有などのサポートもしています。

まとめ

ハンガリーの医学部では、英語での診療・研究という「グローバルに働くスキル」と、EU認定の医師免許という「国際的に認められる肩書き」の両方を手にできます。つまり、世界で通用する医療人を目指せる環境なのです。

しかし、その道は決して平坦ではありません。
授業は全て英語、多様な背景をもつクラスメイト、自己管理能力が求められる試験、実習と並行して進める日本の医師国家試験。
これら全ての壁を乗り越えるには、「医師として生きる」という強い覚悟が必要になるのです。