2026年2月に実施された東京大学前期試験において、「女性の社会進出」を正面から問う設問が異例ともいえる密度で登場しました。歴史系科目を中心に、女性の役割や働き方を題材にした問題が複数の教科にわたって出題されており、受験界では「今年の東大は女性がテーマだ」という声が広まっています。

 今回は、実際の問題を見て解説していきましょう。

日本史の問題

  「日本史探究」では4問中、実に3問が女性に関わる内容でした。第1問は律令制下における女官制度を扱い、尚侍(ないしのかみ)や尚蔵(くらのかみ)といった後宮十二司の長官職が、天皇と二官八省をつなぐ重要な役割を担っていたことを読み解かせる問題でした。

 設問では、9世紀前半、嵯峨天皇が藤原薬子の変を経て男性官人を自身の側近に登用したことで、女官の政治的機能が失われていく変化についても問われました。

 設問に登場した史料は非常によく整理されており、受験生は「女性が政治の中枢から遠ざけられた歴史的経緯」を論述する形で答えなければならないものでした。

 

 第4問は日中戦争から太平洋戦争、そして高度経済成長期にかけての日本における男女の働き方の変化を問う内容で、グラフや史料を用いながら「なぜ戦時中に増えた女性労働者は戦後に定着しなかったのか」「なぜ高度成長期には既婚女性の就業率が低下したのか」を考察させるものでした。家族手当の拡充など政策が「女性を家庭に縛り付ける」構造を後押ししていた事実を読み解かせる内容は、現代社会の問題とも直結しており、単なる歴史知識の確認にとどまらない問題意識を感じさせます。

世界史でも同様!

 「世界史探究」においても第3問が女性の社会的地位の変遷をテーマとしており、古代ギリシャから近現代にかけて女性がどのように社会参加してきたかを問う出題がなされました。日本史と世界史が同じ方向を向いているという偶然ではなく、出題委員会レベルで意識的に設計されたのではないかという推測が、受験関係者の間では語られています。

 こうした出題傾向を語るうえで欠かせないのが、東京大学における女性比率の低さという現実です。東大の学部生に占める女性の割合は長年にわたって2割前後にとどまっており、2025年度の調査でも21.5%と全国平均の約半分以下でした。大学側は2027年度までに女性比率を30%に引き上げることを目標に掲げていますが、達成は容易でないのが現状です。

上野千鶴子氏の東大の式辞

 こうした文脈を背景に特に注目されるのが、社会学者の上野千鶴子氏が2019年の東京大学入学式で述べた式辞です。上野氏はその場で「東大に入学できたこと自体が、あなたたちの努力だけでなく、恵まれた環境のおかげでもある」と語り、医学部を中心とした女子受験生への不当な差別、東大女子が自分の大学名を隠さなければならない社会的な歪み、そして女性教員の極端な少なさなど、東大が抱えるジェンダー不均衡の問題を正面から指摘しました。この式辞は大きな反響を呼び、「東大は女性差別の問題から逃げていない」というメッセージとして広く受け止められました。

 そして7年後、今度は入試問題そのものが語りかけてくるようになりました。尚侍が政治の中枢から外された奈良・平安の歴史、戦時中に一時的に社会進出を果たしながらも戦後に家庭へと引き戻された女性たちの姿、高度成長という「豊かさ」の裏で形成された性別役割分業の構造——これらの問いは、これから東大に入学しようとする受験生たちに向けた、静かで鋭いメッセージのように映ります。

 とはいえ、批判もあります。受験生は試験当日、合格のために全力を尽くすことに精神的リソースを使い果たしています。その状況で「社会的メッセージを受け取れ」「問題意識を持て」というのは、場の設定として不適切ではないかという声もあります。プレッシャーのかかった試験の場でメッセージ性のある内容を入れてもダメじゃないか?と。

まとめ

 批判もありますが、この問題はなかなか攻めた問題として現在話題です。

 東大自身が変わろうとしているのか、あるいは受験生や社会に変化を促そうとしているのか——その答えはまだ問いの中にあります。