学歴は、収入の差となって表れる。大人はもちろん、子どもですらも、おぼろげながら理解している残酷な事実ではないだろうか。
例えば、労働政策研究・研修機構による『ユースフル労働統計2022』によれば、男性は中学卒で1億9千万円、高校卒で2億1千万円、高専・短大卒で2億1千万円、大学・大学院卒で2億6千万円に、女性は中卒で1億5千万円、高校卒で1億5千万円、高専・短大卒で1億7千万円、大学・大学院卒で2億1千万円となると推計されるそうだ。このデータは、男女で賃金の差がありつつも、基本的には中卒よりも高卒が、それよりも大卒がより多くの賃金を得られることを示している。
だが、コンサルティング会社AFGの推計によれば東大出身者の生涯年収は4億6126万円にものぼるという。一般的な生涯年収の、おおよそ倍だ。18歳時点でちょっと勉強ができただけで、2億円以上もの差が生まれてしまう。東大以外にも、早慶卒ならおよそ4億、MARCH卒ならおよそ3億5000万とも言われており、やはり学歴によって大きな差が生まれていく。
学歴を手にする競争は毎年熾烈を極める。昨今では、大学受験を見通した中学受験が過熱しすぎた結果、小学校受験にまでブームが遡ろうとしている。だが、「一般受験で早慶に入るより、指定校のMARCHのほうがコスパが良い」など、「教育のコスパ」については諸説入り乱れており、誰も「どのルートが一番コスパよく進学できるのか」確証がないままに、一般選抜と総合型選抜・国公立と私立などイデオロギーを戦わせているのが現状である。
そこで、今回は受験全般に詳しい「じゅそうけん」こと伊藤滉一郎氏に「どのようなルートがコスパよく教育を提供できるか」を伺った。
○まずは目標を定めるべき
__切っても切れない「教育とカネ」の問題ですが、どのように考えれば「コスパよく」教育ルートを策定できるでしょうか。
伊藤:生涯年収を左右する一番のファクターは、やはり「最終学歴」。特に、大学と学部を重視する方が多いでしょう。「いい大学に行った方が、いい給料をもらいやすい」。そして、いい大学へ進学できるか否か、可能性を左右するファクターは、「小学校受験」「中学受験」「高校受験」「大学受験形式」の4つが代表的。行きたい大学のレベルによって、中学受験、高校受験どちらに力を入れるべきか判断することが重要です。
例えば、最終学歴を「旧帝」や「早慶」にした場合には、少なくとも小学校受験までは必要ないでしょうね。小学校から中学受験向けの特別カリキュラムが組まれた学校で叩くとか、早慶付属に入れて内部進学させるとか、そこまでしなくても、大学受験でチャレンジすれば十分です。
ただ、中学受験はした方がよい。もちろん、御三家レベルでなくとも、芝とか攻玉社とか、日能研・四谷偏差値55~60くらいの学校を狙いたい。このくらいのレベル帯であれば、仮に学年中位クラスの学生でも、早慶進学を十分現実的に語れます。旧帝・早慶以上を狙うなら、子どものポテンシャルに大きく左右される部分ではありますが、確率を上げたいならば、それなりの中学・高校に入るべき。
実際に、進学者ランキングを見ても、中の上~上の下レベルの中高一貫出身者が多いんです。高校でジャンプアップするのも苦労するでしょうから、せっかく中学受験するならば、最低限の中学には入ったほうがよい。中学受験最大のネックである莫大なコストですが、小学校段階で早慶進学を狙う家庭なら、十分余裕があるでしょうし。
__なるほど、それではMARCHレベルではいかがでしょうか?
伊藤:20年、30年くらい昔の感覚で言えば超難関だったMARCHですが、現在では入試方式が広がって、一般・AO・総合型など組み合わせ次第で複数回受験できるシステムが整っています。入試を制す難易度は、明らかに低下しているでしょう。私大バブル時代でいえば、日東駒専~大東亜くらいの感覚でとらえてもいいかもしれません。親世代にとってMARCHといえば金看板でしたが、正直昔に比べれば、今はかなり入りやすい。
偏差値55~60くらいの学校にも指定校推薦の枠が配られていることも多く、塾にガッツリ課金しなくても入る道まであります。むしろ、今のMARCHにがり勉してまで行くのは、ちょっと割に合わないかも。
とはいえ、中学受験自体は「必須ではない」というだけであって、資金に余裕があるならば、チャレンジしてみたほうがいいですね。
○中学受験は参加すべき
__コスパの面で言えば、明らかに中学受験すべきではなさそうですが……。
伊藤:中学受験は確かにお金がかかります。ただ、大学受験と違って、まだ親のカバーが効くんですよ。たくさんお金を出して、たくさん時間を使って、ありとあらゆる手厚いサポート体制を敷いてあげれば、ちょっと背伸びできる。それに、幼いころから勉強の習慣を一定身に着けるには、これ以上ない口実ですよね。「小学校時代で勉強にしっかり打ち込んだ」と実績ができること自体が、これ以上ない利点です。
それに、中学受験をしたから爆発的にジャンプアップできるわけではありませんが、それでも、偏差値3~5ポイント程度上を見られるようになるかもしれない。例えば、計算力が目に見えて上がります。それに、小学校の勉強がかっちり固まることで中学以降の勉強も身に入りやすくなるでしょう。難関大合格者から「数学は中学受験の貯金があったから勝てた」なんて聞くこともありますからね。高学歴になりたいならば、明らかに中学受験はするべきです。
とはいえ、向き不向きがあるのも確か。たくさん勉強すること自体がストレスになるタイプだとまずいし、子どもの成績で親が不機嫌になっても家庭内不和の原因になる。私も色々なご家庭の様子をうかがってきましたが、どうやら一番重要なのは「親のストレスコントロール術」のようです。親自身のアンガーマネジメントが重要で、成績が良くても悪くても、特に気にしすぎず、いい意味で放任するのがよいのでしょう。口で言うのは簡単で、これがなかなか難しいのですがね。
○結果ではなく過程を見定める
__お金がない人にはどうしても難しい現状ですね……。
伊藤:ここまで散々中学受験の有用性や重要性を述べてきましたが、個人的にはそこまで躍起になってやるべきではないと感じます。1970年代には12%やそこらだった中学受験参入率が、いまでは30%にまで迫る勢い。私見ですが、今中学受験に参加している人たちの半分以上は、本来やらなくていい・やる必要がない戦いを経験しています。
そもそも、いい大学に行きたいなら、いい高校に行けばいい。そして、中学受験と高校受験では、御三家レベルといえども、高校受験のほうがずっと難易度が低いんです。もちろん、リスクが大きく低減するので「やり得」ではありますが、それでも無理をしてまで参加する必要はない。
どうしても中学受験をしたいなら、何のためにやっているかを考えるべき。勉強習慣をつけるため、勉強した実績をつけるためと割り切っていれば、結果が低迷しても気にならないでしょう。「結果」ではなく「過程」それ自体に意味があると思えるならば、何よりも健全な形なのではないでしょうか。
○まとめ
学歴社会では、どうしても点数や順位など、結果ばかりが気にされてしまう。だが、本来は「勉強=自己研鑽」それ自体が褒められる行為であり、その結果によって優劣をつけるのは、好ましくない事態だろう。
伊藤氏は「子どもの精神衛生を保ちつつ受験する『ゆる中受』がおすすめ」と教えてくれた。すなわち、
・テストの点数を親が気にしない
・下手に偏差値を上げようと頑張りすぎない
・中学受験で戦うことにこだわらない
の3点を守りつつ、ただひたすら緩く勉強の習慣を積み重ねていくだけの「ゆるい中学受験」だ。偏差値50程度の「いける中学」に固執するのではなく、高校受験に向けて中学で息切れしないように勉強習慣をつけるため勉強する。「ガチ高校受験」に近いそれは、確かに世の親たちを救う一手になるように感じた。
学歴は確かに人生を左右する。だが、学歴に振り回される人生を送るようでは本末転倒。なによりも、自分の人生を生きるために必要な要素を、親子で話し合う機会こそが必要とされているのかもしれない。





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