2026年度入学者選抜から、東京電機大学工学部の全6学科に新設された「総合型選抜(とんがりAO)」。家電を分解して仕組みを理解した経験、工学的なアイデアをWebやSNSで広めた経験、サーバを自前で構築・運用して生活に役立てた経験――。
大学が出会いたい受験生像を、5分類・20項目の「とんがり要件」として具体的に示した、工学部独自の選抜方式だ。
なぜ、ここまで具体的な人物像を掲げたのか。発案者である東京電機大学工学部電気電子工学科の吉田俊哉教授と、入試のご担当者にお話を伺った。
洗濯機のモーターは、高校数学で回っている
「実学尊重」を建学の精神に掲げる東京電機大学(以下、電大)では、1年次から実験や実習、ワークショップなど、実際に手を動かす学びが取り入れられている。その根底にある考えを、吉田教授はこう語る。
「数式が解けたかどうかは、全体を理解したことにはならないんです。その数式が言っていることを、現実世界で説明できるか。ものを触るところが原点で、そこから考えていく」
吉田教授は、高校までの学びは科目や単元ごとに分かれているため、テストでは正解できても、得た知識を現実の問題に結びつけられない生徒も少なくないと指摘する。
だからといって、高校の学びが役に立たないわけではない。むしろ、その知識をどうつなぐかが重要になる。
「分野にもよりますが、工学で使う数学の8割、9割は、高校数学で足りるんですよ。残りの1割、2割が足りないためにつながらず、結局わからなくなってしまう。そこさえ埋めてあげれば、研究者がやっているようなことも理解できるし、参加もできるんです」
吉田教授の専門は、モーターと制御だ。家庭の洗濯機やエアコンでは、制御用のコンピュータが、1秒間に数万回、三角関数を含む計算を繰り返しているという。数学、物理、電気、磁気。複数の知識がつながって、初めてモーターは回る。
工学部第二部の学生の一人は、「高校の数学なんて意味がないと思っていたけれど、大学に入って『ここにつながっていたんだ』とわかり、高校数学を総動員したら、大学の勉強がすごくよくわかった」と語ったそうだ。
断片的な知識をつなぎ、現実の現象を考える。電大が学生に育んでほしいのは、そうした力だ。
高校の探究学習でも、教員の支援によって見栄えのする成果物を仕上げること以上に、たとえ期待した成果が出なくても、生徒自身が試行錯誤し、筋道をつくってやり切った経験にこそ、「つなぐ力」が表れると吉田教授は話す。

「秋葉原を育てた大学」が抱いた危機感
「とんがりAO」誕生の背景には、電大ならではの危機感があった。
「うちは秋葉原のそばにある、というより、秋葉原を作ったと言われる大学なんです。かつては秋葉原で部品を買ってきて勝手にものを作り、大学の設備も使って、授業と関係がなくても教員に質問しに来る。そういう学生がたくさんいました。その気質はいまも残っていますが、時代とともに“濃さ”は薄まってきた」
好きなことを自発的に掘り下げる学生は、試行錯誤の中で知識や経験を自然につないでいく。まずやってみる。失敗したら、また試す。新しい知識を得ると、「これを使ってみよう」とすぐに動き出す。
従来の総合型選抜では、多くの資格を持つ受験生にも出会ってきた。しかし、資格の数だけでは、得た知識を組み合わせ、考え、ものを生み出していく力までは見えにくかったという。
そこに、生成AIの登場が重なった。入試のご担当者は率直に明かす。
「ChatGPT以降、気の利いた志望理由書なら誰でも書けてしまう。どれも同じような書類になる中で、電大が本当に会いたいのは“真のオタク”なんです」
募集人員は若干名。多くの受験生を集めるための入試ではない。
「ものが見えている人が一人いると、そばにいる学生にも興味が伝わっていく。起爆剤になってくれる子に、わずかでも入ってきてほしい」
吉田教授は、そう期待を込める。

20の要件は、教員の「こんな子に会いたい」から生まれた
「とんがり要件」の作り方も独特だ。制度の趣旨に賛同する教員たちに、「こんな生徒がいたら面白い」「こんな受験生と会ってみたい」という具体例を挙げてもらい、集まった声を分類・整理して、5分類・20項目にまとめた。
20項目は、次の5分類で構成されている。
・アイデア・創造でとんがり
・熱中でとんがり
・好奇心と知識でとんがり
・理系科目でとんがり
・電大でとんがり
実際のとんがりの詳細項目はこちらから。
要件に完全に一致していなくても、類似する経験や技能があれば、自分なりに項目を読み替えてアピールできる。この点も、出願書類に明記されている。
ここまで具体的な項目を掲げた狙いを、吉田教授はこう説明する。
「マニアックな趣味って、褒められると思ってやっているわけじゃないから、本人は意外と口にしないんです。面接試験では“深い趣味を話したら負け”、説明しにくいから無難に『読書が好きです』と言った方がいい――そんな空気さえある。でも、具体的で強烈な項目が一つでも目に入れば、『これでいいんだ』『自分もいけるんだ』と思えるはずなんです」
書類の段階で「会ってみたい」と思わせる受験生たち
初年度には、「とんがり要件」に示された人物像を、そのまま体現するような受験生も現れた。
ある受験生は、小学校に上がる前から、親の影響で家電を分解していた。怒られながらも父親に教わって元に戻すうちに、その面白さに目覚めた。高校生になると、オークションで機器を手に入れ、さらに探究を深めていった。
別の受験生は、50~60年前のラジオをインターネットで購入し、時間をかけて修理することを趣味にしていた。本人の部屋の写真には、ラジオや柱時計が所狭しと並んでいたという。
選考は2段階。2027年度入学者選抜では、第1次選考は出願書類による審査、第2次選考はプレゼンテーションと個別面接(口頭試問を含む)で行われる。
「書類を読むと、どんなとんがりなんだろう、実際に会ってみたいと思える。読むのが楽しい入試です」
入試のご担当者は笑う。選考に携わった教員からも、「この入試が始まってから、書類を読むことも、受験生に会うことも楽しくなった」という声が上がっているそうだ。
では、面接では何を見ているのか。
「本気でやっている子は、自分がわかっていないことが、わかっているんですよね。
深く突っ込んだときに『そこはまだ理解できていないんです』『やってみたけれどうまくいかなくて』と会話ができる。面接のためだけに準備した子は『そこは勉強していません』で終わってしまう。その差は大きくて、ああ、この子は伸びるな、とわかります」
大学が求めているのは、すでに完成された専門家ではない。要件に完全に一致していなくても、自分の成果や経験、技能をもとに、類似する要件として読み替えることができる。
大切なのは、何かに強く惹かれ、自分なりに試行錯誤してきた過程と、その先に大学で深めたいことを、自分の言葉で語れることだ。

高校の先生方へ――生徒の「とんがり」を、消さないで
最後に、全国の高校の先生方へのメッセージを聞いた。
「とんがり報告書は、本人から湧き出たものを書く書類です。経験や動機そのものを、先生がつくり替えることはできませんし、本人から出ていないものは、すぐにわかってしまう。表現を磨く手伝いはぜひお願いしたいのですが、生徒の言葉を“きれいな書類”に直してしまえば、とんがりは消えてしまいます」
誤字や表現を確認し、本人の考えが伝わるよう問い返すことと、大人が経験や人物像そのものをつくることは違う。吉田教授が警戒するのは、後者だ。
面接のために人物を作り上げるような入試対策にも、違和感を隠さない。AIを使うこと自体を一律に否定しているわけではない。ただし、使い方が重要だという。
「AIに人格を書かせるのではなく、自分のやりたいことが本当に表現できているかを確かめる壁打ちに使えば、ちゃんと自分が出てくる。自分を出して、自分で考えてほしいんです」
入学後には、高校ではなかなか出会えなかった、好きなことを存分に語り合える仲間が待っている。
広報物の撮影に集まった写真部の学生3人が、撮影の合間にもレンズ談義に夢中になっていたというエピソードも飛び出した。一人で好きなことを掘り下げてきた高校生が、仲間に出会い、さらに“濃く”なっていける場所。それが電大なのだ。
初年度には、探究学習に取り組んできた受験生も多く出願した。そこで自分なりに工夫したことや、大学で取り組みたいことを熱意をもって語り、合格した例もあったという。

「何か一つでも、好きなことがあると言えるなら、どうぞ受けてください」
その言葉に、この入試が受験生へ送るメッセージが凝縮されている。
※入試内容、出願資格、提出書類等は年度によって変更される可能性があります。受験時には、東京電機大学が公表する最新の入学者選抜要項をご確認ください。





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