みなさんは「将来の夢」を決めていますか? 文理選択、学部選び、就活……様々な岐路で「将来」を考えさせられますが、実はハッキリ将来像が決まっている学生は多くありません。
それもそのはず、学校では「どんな仕事があるか」をほとんど教えられません。世の中には様々な仕事がありますが、それらについて詳しくないうちから「将来の仕事」なんて決められませんよね。そこで、この連載では、世の中のいろいろな専門家に「どんな仕事か」を聞いていきます!
今回お話を伺うのは、ダイスジャパンホールディングスCEOの大月渉さん。激戦区・渋谷にて連日予約で超満員の人気美容院DIECE SHIBUYA.を開業するスタイリストであり、海外からもお客様をお迎えするほどその名声は国境を越えて轟いています。美容師としての活躍目覚ましい大月さんに、美容師になるまでの苦労とやりがいについて語っていただきます!
取材者プロフィール
1993年、千葉県生まれ。DIECE SHIBUYA.【ダイス シブヤ】代表。ダイスジャパンホールディングス代表取締役兼スタイリストとして渋谷を中心に活躍している。月に手掛ける顧客の数は400人を超え、その中でもリピート希望者は8割を超える。メンズスタイリングの技術は美容業界でも高く評価されていて、セミナーや講演の依頼も絶えない。更に、テレビやWEBなどのメディア出演、アプリゲームとのコラボなど幅広く活動している。著書『人生は髪でズバッと変わる』(一迅社)出版。Instagramアカウント(https://www.instagram.com/diece_shou/)

特技が仕事になると知った日
__大月さんは、昔から美容師になりたかったのですか?
大月:実は、高校生までは宮大工になろうと考えていました。左官職人だった祖父の影響でした。今でも建築物や建築技術などにはとても興味があります。それに、おしゃれも昔から大好きだったので、「宮大工なら髪型は自由だし、休みの間も何をしても怒られないから、ちょうどいいじゃないか」と考えていたんです。
__大工さん志望だったんですね。そこから美容師の道へ進むにあたって何かきっかけはあったんですか?
大月:美容師を目指し始めたのは、高校時代のある事件がきっかけでした。
私は千葉の生まれなのですが、ちょうど中学・高校生くらいの頃に地元でギャル男の波がやってきたんです。もちろん私も乗り遅れず、ガッツリギャル男になりました(笑)。
当時は毎朝起きたらまずヘアセットをしていて、髪型には人一倍こだわっていました。せっかく整えた髪が崩れてしまうくらい雨風がひどい日は、「学校行きたくないな」って思いましたし、実際にそのままサボってしまう日もありましたし……。
__きまってないと、恥ずかしいですよね。
大月:やっぱり、自信をもってセットしているので、あまり崩れたところを見られたくないんですよね。
実際、当時の高校選びの軸は、サッカーが強いかどうかと、髪型が自由かどうかにありました。
ある日、金髪や銀髪の先輩たちがいる学校を見つけました。「なんて素晴らしい学校だ!」と衝撃でした。偏差値的には高くなかったものの、親も勉強の出来にこだわらないタイプだったので、「髪色自由」だけを目当てに学校を決めました。
でも、「これで、髪色自由の高校生活だ!」ってウキウキしていたら、入学と同時に校長が変わって、強制黒髪の生活が始まったんです(笑)。相当へこみましたね。

__それは災難でしたね(笑)。
大月:それでも、夏休み中だけはセルフカラーをするとか、黒髪なりにセットをするとか、色々頑張っていました。そうしたら、当時付き合っていた彼女から「私の友達が『ヘアセットめっちゃうまいね!』って褒めてたよ」って言われて。
すると、同級生からもセットを頼まれるようになりました。「じゃあ、500円でやるよ」って冗談で言ってみたら、本当に500円払って依頼してきたので、そこから他人の髪の毛をいじるようになったんです。
__大月さんの技術で500円なら相当安いですね。
大月:とはいえ、学校的には生徒間でお金のやり取りってあまりよろしくないですよね。高2の終わりくらいにヘアセットのバイトがバレて、相当怒られました。この時、先生から「お前、そんなに髪の毛が好きなら美容師になればいいのに」と言われたんです。「確かに」って思いました。
__それがルーツなんですね。
大月:「昔から髪の毛が大好きだった自分」に気付かせてもらった一言でした。これがなければ、今頃は大工になっていたはずです。

スタイリストまでの道のり
__美容師になるまでには、どのようなルートがあるのでしょうか?
大月:美容の専門学校に通って、卒業資格と国家資格を取る必要があります。
専門学校は2年で卒業(通信は3年間)で、入学試験や面接は難しくないですが、卒業までは恐ろしく忙しい。
1年目は美容文化論、関係法規、衛生、技術理論などを学びつつ、国家試験に合格するための実技を含む様々なことを学びます。
__法律もやるんですね。
大月:美容師と理容師は法的に異なる職業で、できることが変わってくるんです。だから、理容師に許されていることを美容師がやってはいけない。これを学ぶために、法律も一通り知っておかないとまずいんですよね。
例えば、僕ら美容師は「顔そり」ができません。簡単に言えば、美容免許では、「刃を直接皮膚に触れさせてはいけない」んです。だから、眉カットも剃刀を使いませんし、坊主にするのもバリカンで刈り上げるまでで剃毛はできません。
__確かに、剃刀で髭を剃ってもらうイメージはないですね。
大月:ほかにも色々と細かい決まりがありますから、しっかり勉強しなくてはいけません。
それに、勉強は最悪家で自習すればいいのですが、技術実習はひたすら登校して練習する必要があります。もちろん、実習の枠も限りがあるので、限られた時間を集中して取り組まないと、卒業できない。
__実習試験に受からないと、免許が取れませんものね。
大月:学校側も免許取得率などが一つの売りになるので、とにかく現役で国試に受からせようと必死です。だから、休みの規定もめちゃくちゃ厳しい。「年間で休んでいいのは○日まで」と決まっていますし、仮に休んだら必ず補修を受講します。私自身も、卒業前最後の春休みを溜まった補講の消化で全て潰してしまいました。国試には受かっていましたが、卒業が免許交付の条件なので、嫌でも受けざるを得ません。

__「専門学校は通った後に死ぬほど忙しい」とはよく聞きますが、へたな大学生より百倍忙しそうですね……。
大月:これに加えて、就活もあります。昔は2年生から始めましたが、最近は1年生の夏くらいから取り組む人もいるようです。
余談ですが、もし最速でスタイリストになりたいなら、高校を卒業後、すぐに美容室で働きながら、美容の通信学校に通うといいでしょう。
お客様に触れられない仕事ならできますから、「いきなり美容室就職」も十分可能です。
第一線で美容室の仕事に触れながら、閉店後などはウィッグで実技の練習ができます。
免許交付直後からスタイリストデビューも可能なので、最速1年間のアドバンテージが得られます。難しい道ですが、本気で考えているならこの道を勧めたいですね。
基本的には、美容室から出ている募集要項があるので、これに応募して就職先を決めます。ただ、個人サロンで、美容師さんと個人的にすごく仲が良いなど関係性があれば、「ここで働かせてください!」と直談判できるケースもあります。
実際、私は昔からお世話になっていたサロンで、担当の方にお願いして就職を決めました。チェーン展開するような大手サロンでは採用フローが決まっているでしょうから、これは個人サロンでしかできないやり方ですね。

__「ここで働きたい!」と思うきっかけがあったのでしょうか?
大月:美容師って、離職率が凄く高い仕事なんです。一般的に美容師と言っても、「スタイリスト」と「アシスタント」に分かれていて、お客様の髪の毛をカットできる「スタイリスト」になるまでは、「アシスタント」としての数年の修業期間があります。
私もアシスタント時代は開店の数時間前に来てカットを練習し、営業時間中は業務をこなして、閉店後にまた数時間残ってカットを練習する生活を送っていました。美容専門学校時代よりも、さらに厳しい生活です。
でも、私の師匠となるその美容師さんに「どうして美容師になったのに、みんなすぐ辞めちゃうのか」と聞いてみたら
「それは、スタイリストになってからのやりがいや楽しさを伝えられない、僕たち先輩が悪いんだ」って返ってきました。
「若い子が悪い」ではなく、「自分たちの世代が悪い」って思えるくらい、楽しい仕事なんでしょうし、責任を持って取り組んでいるんだなと伝わってきたんです。
__大月さんは2016年にスタイリストとしてデビューし、2019年11月にDIECE SHIBUYA.をオープン、次いで2024年に2号店DIECE 2’nd Florをオープンされ、現在では経営者としての側面を持たれるようになりました。美容師と経営者両面のやりがいが見えてくる時期かと思いますが、それぞれの魅力を教えてください。
大月:昔からSNSにはある程度力を入れていました。自分のカッコいいと感じるスタイルを発信し続けることで、自分のブランドを作れるのではないかと考えてのことでした。その結果、Instagramで変身動画がバズり、いまでは海の向こうからSNSを頼りにして髪を切りに来てくださるお客様にも恵まれています。
日本国内でも、「明日結婚式なんです!」とか「これからデートなんです」と晴れ舞台の前に来店くださったり、中学生がはるばる飛行機や新幹線に乗って髪を切りに来てくださったり、とにかく色々な年代、国籍の方が集まってくるんです。
そうした方からは、「大月さんだからお願いしています」と仰って頂けますし、施術後に笑顔になってお帰り頂けると、私自身としても、頑張った甲斐があります。
経営者としても、私のもとで働きたいと言っていただける機会も増えましたし、もし「大月が育てた人に切ってほしい」とか「東京は無理だけれど、地元に系譜のお店ができたらうれしい」なんて声が大きいなら、その期待に応えて出店するだけの価値を感じます。

__最後に、高校生に向けて、メッセージをお願いいたします!
大月:美容師は、何でも自由なんです。好きな音楽を聴きながら、好きな服で、好きな会話の内容で、好きな髪形を追求できる。
でも、自由ってことは、「誰も正解を決めてくれない」ということでもあります。「なんでもいい」からこそ、「俺はこれだ!」って形を全てにおいて決めなくてはいけません。それこそが自分の価値であり、これを認められるようにするには、やっぱり頑張る必要があります。
でも、難しく考えすぎないでください。「美容師になろうかな」と考えているならば、「まずやってみろ!」と勧めたい。私自身、自分がどうありたいかを考えた結果、自由でありたいし、好きなものに触れていたいから、美容師になりました。
仕事のやりがいって、やってみないと分かりません。もしどうしても迷ってしまうなら、憧れの美容師さんのSNSを見て、「どうしてこんなに楽しそうに働けるんだろう?」って考えてみるとか、実際にお店に行って話を聞いてみるとかすると、自分のやりたいことがハッキリすると思います。もしかしたら、私のように「ここで働かせてください!」なんて話になるかもしれませんよ。
大月さんの著書『人生は髪でズバッと変わる』はこちら
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