関連記事

プロフィール

「楽しすぎて、帰りたくないんです。」
OISTでのインターンを終えたばかりの毛防子璃奈(けぼうし・りな)さんは、未来図代表・孫の取材に笑顔でそう語ってくれた。
今回は、毛防子璃奈さん個人にフォーカスを当て、インターン生の視点から見たOIST(沖縄科学技術大学院大学)でのリアルな生活と研究の日々を追う。
彼女は東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻に所属し、2021年に東京大学理科二類に合格。そんな彼女が、東京から遠く離れた沖縄の地に5か月間滞在し、休学もせずOISTでの研究インターンに挑戦した理由とは──。
日本でも数少ない“世界水準の研究環境”を持つOIST。今回の特集では、実際に現地で研究に携わった学生の声を通して、その魅力と可能性を掘り下げていく。
東大生が「沖縄の大学院」に惹かれたワケ
未来図: OISTを知ったきっかけは何だったんですか?
毛防子さん: 1年くらい前に「サイエンスチャレンジ」っていう国内の大学生向けのプログラムに参加したのが最初です。1週間ほどOISTに滞在して、研究室紹介を聞いたり、サイエンスに関するプレゼンをしたりする企画で、研究者を目指す学生たちとの交流の場にもなっていました。
未来図: なるほど、そこで初めてOISTを実際に訪れたんですね。
毛防子さん: そうなんです。OISTの名前はもともと聞いていたんですけど、沖縄ってちょっと遠いじゃないですか。だから行く機会がなくて。でも実際に行ってみたら、研究環境のレベルがすごく高くて、自分が興味を持っている分野の研究室もあったので「ここで学んでみたい」と強く思いました。
未来図: それでインターンに参加されたんですね。期間はどのくらいでしたか?
毛防子さん: 5ヶ月間です。OISTのインターンは最長6か月なんですけど、私は東京大学大学院に在籍していて、ちょうど夏学期に必修が少なかったので、休学せずに参加できました。
未来図: 他の人も休学せずに参加していたんですか?
毛防子さん: 体感的には、休学して参加している人のほうが多かったですね。あるいは卒業して次の進路が決まる前に来ている人もいました。私はちょうど授業と両立できる時期だったので、在学しながらOISTでの研究を経験できました。
インターン生になるための準備とは
未来図: OISTのインターンには、どんな流れで合格されたんですか?
毛防子さん: 手続き自体はシンプルで、申請書を提出するだけなんです。テストも面接もなくて、書類審査のみなんですよ。ただ、申請書の中で特に重視されるのが「志望動機」ですね。どういう研究をしたいのか、何を明らかにしたいのかを具体的に書く必要があります。それに加えて、推薦書を最低1通、最大3通まで提出する仕組みで、これはかなり大事だと噂では言われています。
未来図: 推薦書って、やっぱり重要なんですね。
毛防子さん: そうですね。噂では推薦書の内容がかなり重視されるらしくて。実際、私も3通出しました。ひとつは東大農学部の先生、もうひとつは実際に研究をしていた別大学の先生、そしてもう一人は活動していた学生団体の先輩にお願いしました。その先輩は社会人と学生が一緒に社会問題について議論する団体の方で、私の活動をよく知ってくださっていたんです。
未来図: 出願の準備はいつごろから始めたんですか?
毛防子さん: 締め切りの2か月前くらいから動き始めました。志望動機は1週間くらいで書き上げましたけど、推薦書をお願いする関係で、1か月は余裕を見ておきました。先生方にお願いしてすぐに書いてもらえるわけではないですから。書いた志望動機は、当時指導してもらっていた先生に英語表現などを確認してもらって完成させました。
未来図: なるほど。応募前に先生と話しておくことも大事なんですか?
毛防子さん: すごく大事です。OISTのインターンは書類を出すだけなんですけど、実際はその前に研究室の先生とメールでやり取りして、受け入れてもらえそうか、どんなテーマならできそうかをある程度相談しておくことが多いです。向こうも全く知らない学生をいきなり受け入れることは少なくて、何度かやり取りした学生を選ぶ傾向があると聞きました。
未来図: その情報はどこで知ったんですか?
毛防子さん: それは、前年にサイエンスチャレンジでOISTに行ったときに、実際の学生から聞いたんです。インターン経験者と情報交換する機会があって、「応募前に先生とコンタクトを取ったほうがいい」とか「推薦書は早めにお願いしたほうがいい」といったアドバイスをもらいました。
私の研究内容
未来図: OISTでは、どんな研究をされていたんですか?
毛防子さん: 私自身、もともとずっとクジラやイルカの研究がしたくて、子どもの頃から海の生き物が大好きだったんです。小学生の頃なんて、魚や海洋生物の図鑑を何冊も集めて、誕生日にもらうのが楽しみでした。ページをめくって毒のある魚とか珍しい生き物を眺めるのが好きで、そこからずっと「海の生き物をもっと深く知りたい」と思うようになりました。
未来図: クジラとイルカの中でも、特にどういう研究に興味があるんですか?
毛防子さん: クジラの研究といっても、フィールドに出て解剖したり標本を集めたりする人も多いんですけど、私はどちらかというと、すでに集められたデータを使って進化や分布の解析を行う研究に興味があります。つまり「データの中にある生物の進化の物語を読み解く」ような研究ですね。もともと生物学のバックグラウンドでやってきたんですけど、学部までは生物寄りで、数学や統計があまり得意ではなかったので、大学院からはデータ解析を強化したいと思っていました。
未来図: OISTでは、どんなテーマで取り組んだんですか?
毛防子さん:OISTにはクジラ専門のユニット(研究室)はないんですけど、生物のデータも解析しているウルフ・ディークマン先生のユニットに参加しました。先生はもともと物理学出身で、数理モデルや統計解析手法を使って進化生物学や漁業管理などの研究をされている方なんです。当初は自分でクジラのデータを集めて解析する計画も考えたんですが、私自身がデータ解析にまだ慣れていなかったことと、先生もクジラのデータを扱った経験がなかったので、5ヶ月という短い期間では難しいという話になりました。
未来図: なるほど。最終的にはどんな形で研究を進めたんですか?
毛防子さん:最終的には、先生がすでに進めていた「川の虫の環境収容力」を推定するプロジェクトに参加しました。半年という限られた期間でも成果が出せるようにと配慮してくださって、データ解析の基礎を一から学びながら、自分の関心である“生物データの理解”につながる形で取り組みました。毎日少しずつ解析を進め、先生に見せては修正を繰り返す──その積み重ねの先に解析結果がまとまり、現在は論文投稿に向けて準備を進めています。「データで生物を理解する」という研究の醍醐味を実感できた、非常に濃密な5か月間でした。
生活も研究もフルサポート!?ー入ってからのギャップとは
未来図: 実際にOISTに入ってみて、印象はどうでしたか?
毛防子さん: 一番感じたのは、研究に集中できる環境が本当に整っているということです。研究そのもののサポートが充実しているのはもちろんですが、それ以上に生活面の支援がとても手厚いんです。住む場所もOIST側で手配してくれて、生活費もOISTや受け入れ先の先生がサポートしてくださるので、自分で部屋探しや手続きをする必要がほとんどありません。食事や通勤の心配もなく、「何も考えなくても生活できる」状態が用意されているので、研究に全力を注げるんですよね。特に沖縄のキャンパスはスーパーやコンビニも遠くて生活は少し不便なんですけど、逆に「研究だけに集中できる環境」が整っていると感じました。
学食は700円!?──OISTの日常と沖縄の時間
未来図: 日々のスケジュールはどんな感じでした?
毛防子さん: 基本的に平日のみで、土日と祝日はしっかり休みでした。朝9時か10時くらいに大学に行って、夜7時ごろまで研究することが多かったです。みんな自分のテーマを個別に進めるんですけど、私のユニットでは昼食を一緒に取る習慣があって、毎日一緒にご飯を食べながら話すことで、研究仲間としてのつながりが自然にできました。インターン同士よりも、むしろユニットのメンバーと深く関われたのが印象的でしたね。
未来図: お昼ご飯とか、皆さんどうしているんですか?
毛防子さん: OISTのキャンパス内にはカフェテリアがあって、そこで食べる人が多いです。メニューは毎日5種類くらいあって、ビーフやチキンの定食のほかに、必ずヴィーガンメニューも用意されていました。国際的な環境なので、宗教や食文化の違いに対応しているのが印象的でしたね。味も美味しかったんですけど、値段が700〜800円くらいで、学生にはちょっと高く感じました(笑)。なので私は基本的に自炊してお弁当を持って行っていました。ユニットの人たちとお昼に一緒にカフェテリアへ行って、みんなで同じテーブルで食べる時間が日課になっていました。そういう何気ない時間がすごく楽しかったです。

未来図: 休日はどう過ごしていましたか?
毛防子さん: 時間があるときは、離島に行くことが多かったです。特に気に入って何度も訪れたのが、渡名喜島という小さな島でした。観光地という感じではなくて、本当に素朴で、昔ながらの沖縄の家並みが残っている場所なんです。そこで仲良くなった地元の方の家にお邪魔して、沖縄の暮らしについていろいろお話を伺ったこともありました。自然が豊かで、人との距離が近いあの感じは、都会では味わえない心地よさがありましたね。
未来図: 沖縄ならではの不便さもありましたか?
毛防子さん: はい、やっぱり車がないと何もできないのは大変でした。スーパーもコンビニも近くにないので、買い物や郵便を出しに行くのも一苦労です。OISTのインターン生向けに1台だけ共有の車があったんですけど、それも争奪戦でした(笑)。私は基本的に必要な時だけレンタカーを借りていましたが、やっぱり移動の自由が限られるのは不便でしたね。
毛防子さんからの一言
未来図: OISTで5か月間のインターンを経て、改めてどうでしたか?
毛防子さん: やっぱり日本では「海外に留学する」という選択肢は、大学生の間でもだいぶ一般的になってきましたよね。でもその一方で、“国内で研究室を移動する”という文化はまだあまり盛んではないと感じています。もし国内の大学同士でもっと研究交流やインターンが活発になれば、学びの幅はぐっと広がるはずです。
大学に入ってみないと、どんな研究室があるのか、どんな先生がどんな雰囲気で研究しているのかって、なかなか分からないものですよね。数年通って「ちょっと違うかも」と思ったときに、OISTは研究室でインターンとして学べる制度があって、視野が大きくひらかれると思います。
彼女の志望理由書
毛防子さんは志望理由書の中で、「クジラと人間が持続的に共存できる社会を実現したい」という明確な目標を掲げていました。
これまで、海洋生物学やバイオインフォマティクスを中心に学び、絶滅したニホンアシカの古代ゲノム解析などに取り組んできたそう。その経験から、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のインターンシップで海洋生態系の保全につながる研究を行いたいと考えるようになったといいます。
志望理由書では、特に「Complexity Science and Evolution Unit」への参加を希望しており、次のように記していました。
“I hope to join Complexity Science and Evolution Unit because theoretical and mathematical studies will complement the paucity of real data of cetaceans and provide insights into their history, such as how cetaceans acquired various sounds and evolved into diverse species.”
(理論的・数理的研究によって、クジラ類の限られた実データを補い、彼らがどのように多様な音声を獲得し、進化してきたのかを明らかにしたい。)
また、ゲノム解析を行っていたことから、「数学的に導かれた進化の仮説を、遺伝学的視点から検証できる研究者になりたい」とも記しています。
さらに、OIST Science Challenge 2024では、クジラにセンサーを装着して深海を探る「生きた探査機」というアイデアを発表し、Audience Awardを受賞。この経験を通して「科学的コミュニケーション力を磨き、国際的な研究ネットワークを広げたい」と抱負を述べていました。
まとめ
OISTでの5か月間を通して、毛防子璃奈さんが感じたのは、「研究に没頭できる環境」の尊さと、「国内でも研究の越境がもっと広がってほしい」という願いだった。
海を越えなくても、日本の中には世界水準の研究環境がある──それを自ら体験した彼女の言葉には、研究の未来を照らすような力強さがある。




.jpg&w=3840&q=75)
.jpg&w=3840&q=75)

.jpg&w=3840&q=75)




.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)



.png&w=828&q=75)
